介護の現場から

仕事の虫

「社長、ちょっと来てくれる?」

 リビングにいたTさんが私を見て呼びかけてきた。

 

 自室に招き入れた彼女曰く、

「あんなー、私はここで一生懸命働いとんのに一銭もお金くれんのよ。

 社長、ちょっとでも何とかならん?」

「・・・・・。」

 

 予期せぬ要求に私もサテどう答えたものかと返答に窮する。

 

 グループホームでは、働ける人には極力家事などを手伝ってもらって

 残存能力を維持・高めることをケアの柱にしている。

 確かに彼女は多少認知症はあるものの足腰はしっかりしてよく動く。

 スタッフの知らないうちに外出をしたりもする。

 時々聞く彼女の話によると、

 戦前 両親と大阪へ出て働き、戦災に遭って愛媛へ帰り、

 結婚後もずっと働いてきて、働くことが体に染みついている感じである。

 

「次々 人が仕事を世話してくれてなぁ・・・。」

 

 骨身を惜しまず働いて、周りの人の信頼も厚かったに違いない。

 さてと、どう返事をすべきか・・・。

「あのね、お金は払いたいんやけど、国の規則で払ったらいかんことになっとんよ。」

「国がいかんのけぇ。」

「そぉなんよ。」

「国はひどいもんやなぁ。ほんでも国が云うんならしゃぁないなぁ。」

 

 納得してくれたのかどうか それから彼女の要求は無くなった。

 でも 今でも「私は"やわらぎ"と云う所で働いて、そこにおりますけんな。」

 と逢う人に云っている。

                       (みのりティータイム通信H25.5月号掲載分)